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「はぁ。ああっ。今となっては原因などどうでも良い。張超殿も孔抽殿も、許楊殿も撤兵してしまった、領地まで遠いのでまだ食糧が多少なりとも残っているうちにとな」
「では連合は――」
「解散はせんが、私や袁紹殿は河内に拠点を移し、冀州からの補給を待つことになるな。青州で盗賊の勢いが増し、連合に賛同していた刺史焦和殿らもそれどころではなくなったとの連絡もあった。残る者は少ない」
盟主や副盟主はやめるわけには行かない、避孕丸 曹操に至っては陣から離れては逆に食糧を手に入れる方法がないのだ。王匡も地域柄辞めたとは言えない、となるとどちらになるか不明なのは陳留太守張貌と、済北相鮑信だけ。期せずして島介は陣を離れることが出来そうだと思ってしまう。
「洛陽で孫堅殿が胡軫の奇襲を受け敗戦、荊州方面へ撤兵している。ここらが潮時なのかも知れないな」
その情報はまだだったようで、曹操が「仕方ないのであろうな」流れが離れていることを悟る。「だが董卓の治世など長く続かんさ、無理をするのは今じゃない。私も一旦戻ることにするが、またすぐに再会することになりそうだ」
「島介殿がそのように言うならば心強い。一年かそこらの辛抱であろう」
時世が悪い、自身の展望を持っているからこそ納得することが出来た。だがそんな曹操ですらやや意外な反応。
「半年もかからないはずだ、そのうち上へ下への大騒ぎが起こるさ。そこを境に時代は加速する」
じっと島介の瞳を覗き込むと「天下に英雄は君と私しかいないと思っている」お得意の発言をした。曹操が誰かを褒める時には、必ず自分をセットにして言う。そういった戦略のようなものだ、お互いに売り込んでいこうと言う。
挨拶はわざわざしなくてもいいだろうと、幕には戻らずに陣営へと足を向けた。留まらずにさっさと抜けようとしていると劉備が関羽、張飛を伴い姿を現す。平静を装い一礼する、島介も歩み寄り二人で言葉を交わす。
「島介殿、何もお役に立てずに申し訳なくおもっております」
「みな自分のことで精一杯なんだ、何とも思わんよ。劉備殿はこれからどうするつもりで?」
自分は拠点に帰ると軽く告げた。三日もあれば行き来できる場所なので、そこまで大事とは思っていないが。
「董卓に捕らわれている帝は心を痛めておいででありましょう。私は連合軍に残り、最後まで微力を尽くさせて頂きます」
初めからずっと忠誠心を露にしている。他の諸侯らはうわべだけかも知れないが、劉備は心底そうだと。島介は「劉協へのその心、私が代わりに感謝を示させて貰う。ありがとう劉備殿」真顔でそのようなことを言った。 劉備はそれを不審に思い、同時に不遜にも思った。だが一切表情には出さない、そこは一流の自制心だ。
「なぜ島介殿が?」
「前世の縁とでもいうか、私と劉協とは友人なんだ。洛陽を離れる前に話をして、必ず迎えに行く、いつかその時が訪れるまで決して心を折らずに待っていてくれと約束をした。あいつはあの小さな体で頑張って立っているんだ、それを応援してくれるものが居れば感謝もする。情けないよ、これだけの力を持った者が集まったというのに、あいつを支えることすら出来ないでいるのが」
たわごとを吐いているような様子は一切無い、劉備は少なくとも島介が本気でそうだと信じているのを感じ取った。
「不肖、劉玄徳も帝をお助けするにあたり、この身を捧げさせていただく所存」
大きく二度頷くと、小さく深呼吸をした。いつもの感じに戻り「おーい張飛、こっちにこい!」急に後ろで待っている髭もじゃの男を呼ぶ。
「なんでぇ島の旦那」
「これ翼徳」
あまりな呼びかけに兄としてたしなめた。主君ではあるが、どうしても身内だとの感覚が先に来てしまう。
「はははは、構わん構わん。俺は帰るから置き土産をくれてやる、酒と肉を渡すから取りに来い」