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Wada's Blog

にとっても山南君の

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にとっても山南君の

にとっても山南君の切腹は衝撃でした。彼はつまらないことで死ぬ男ではありません。故に、彼にとって

を諌めるということはそれだけの価値があったのでしょう」

 

 伊東にとって、山南の立ち位置というのは眩しく見えた。嫉妬心が無かった訳ではない。超えたいと強く思ったが、死んで欲しいとは一度も考えたことは無かった。

 山南は道場の隅にいるような、影の薄い柔和な男だった。ああして再会さえしなければ、思い出すことなど無かったと断言出来るほどに。

 

 だが、今やどうだろう。避孕 局長の近藤よりも、土方よりも誰よりも鮮やかに眩しく己の中に残っているのだ。

 

 

 その様に尊い男の思いを無碍にすることは、今の伊東には出来なかった。のしたことを誤りだったとは思いません。ですが、浅慮だったと思っております」

 

 腿の上に置かれた拳を握り、を垂れる伊東の姿は悔やんでいるように見える。

 

「今後、土方副長とも腹を割って話すように心掛けます。……にはもう退路はありませんから」

 

「退路……?」

 

 そう問い掛けた時である。ドタドタと弾むような足音が聞こえた。藤堂だと直ぐに分かり、視線をそちらへ向ける。

 

 

「この話はまたいつか……。今度は貴殿の話も聞かせて下さいね、鈴木桜司郎君」

 

 伊東はそう言うと、妖しげに目を細めて桜司郎の頭を撫でた。そして藤堂の元へ向かう。 その後、伊東を伴って試衛館へ戻った藤堂と桜司郎は自身の荷造りをしていた。明日の早朝には江戸を発つと云う。当初は四人で来たものが、五十二人の新隊士を伴うものだから大変な大所帯の行進となる。

 

 土産やらを詰めながら、桜司郎は長かったのか短かったのか分からない江戸での出来事を思い出していた。そこへ土方が顔を見せる。

 

 

「おい」

 

「はい。副長、どうされました?」

 

「帰りの宿は、伊東とお前の部屋に俺も入ることにしたからよ。話は以上だ」

 

 

 土方はそれだけ言うと、さっさと去ってしまった。あれだけ関わるのを嫌がっていたのに、何の心境の変化があったのだろうと桜司郎は土方が去った後を見詰める。まさか、男女の二人きりの同室は良くないとでも思ったのだろうか。

 

「……まさか、ね」

 

 流石に自意識過剰だと肩を竦めると、桜司郎は荷造りの手を進めた。

 

 

 翌朝。朝焼けの綺麗な空を見上げ、江戸に別れを告げる。隊士に志願した者の家族がちらほらと見送りにやって来ていた。

 

 それに混じって建物の影に隠れるように、手拭いを に被った女性がこちらを見ていることに気付く。視線が合うと、女性は会釈をした。

 

 

「あ……」

 

 桜司郎は笑みを浮かべる。近くで土方の出立の音頭が聞こえると、前を向いた。歩みを進めながら、後ろ髪を引かれるように再度振り返る。そしてそっと小さく手を振った。

 

 それを見た女性は我慢出来ないといった風に影から一歩出ると、頭の手拭いを取る。そして背筋を伸ばして頭を下げた。

凛としたそれは、まるで武家の妻が戦場へ出る夫の見送りをしているようにも見える。

 

 

 胸がじんわりと熱くなり、桜司郎は思わず立ち止まった。

 

「わッ!鈴木〜、どうしたの?いきなり立ち止まるなんて」

 

「ご、ごめんなさい。何でもありません」

 

 後ろを歩く藤堂とぶつかりかけて足を進める。何歩か進んだところで横目で見遣ると、既にそこには女性の姿は無かった。

 嫁入りをする女性が他の男の見送りをするなど、あまりにも体裁が悪い。その危険を顧みずに来てくれたのだと思うと、それだけで満たされた気持ちになった。

 

 

──有難う、歌さん。さようなら。どうかお幸せに。

 

 

 桜司郎は心の中でそう呟くと、前を向いて足を進める。

 

 

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