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お茶とみたらし団子を持って表に出ると,吉田にじっと顔を見られた。
「泣かせて悪かったな。」
「えっ何で謝るんです?私が勝手に泣いたのに。」
唐突だったから一瞬何の事かと思ったが,すぐにあの日の事だと分かった。
「三津は本当に馬鹿だね。何で分からないの…俺はあの時嘘をついた。それでお前を泣かせた。」
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「桂さんが来ないってやつ。邪魔したかったんだ,俺だって三津と出掛けたくてね。でも結果的に自分の事しか考えてなかったから,お前を泣かせた。」
吉田は馬鹿なのは俺だなと伏し目がちに溜息をついた。
「あの私…。」
かける言葉もないまんま,お茶とみたらし団子の乗ったお盆を持って直立不動。
「ねぇお茶くれない?」
吉田は立ち尽くす三津を見上げて弱々しい笑みを投げかけた。
「おぉ…ごめんなさい…。」
挙動不審な動きで吉田の横にお茶と団子を置くと,その手を掴まれた。
吉田はその手にお代を握らせた。手首の紐が見える様に左手で。
「あ,その紐…。」
思惑通りに気付いてもらえてほっとした。吉田の顔に笑みが戻る。
「御守。ちゃんと持ってる?」
手首を翳して見せると,三津はこくこく頷いて懐からそれを取り出した。
「この紐何の紐?」
「下げ緒だよ。」
吉田は刀を見せて下げ緒が結ばれている部分をとんとんと指で叩いた。
「俺と三津が切っても切れない縁になりますように。なんてね。」
そう言って口角を上げるその横顔は何だか吹っ切れて清々しいものでいて,深い想いの篭った妖艶なものでもあった。
『そうやって決めつけて俺の気持ちから逃げようとする。向き合ってよ。』
三津の中であの時言われた言葉がようやく飲み込めてきた気がする。
「……吉田さん私の事好きなんですか?」
「ねぇ,こんだけ伝えてるのに伝わらないってどう言う事?」
どうすれば伝わるの?教えてくれない?
妖艶な笑みが背筋も凍る冷たい笑みへと変貌した。
「えっえっホンマに!?」
「ねぇ君本当に馬鹿なの?好きでもない子に口付けなんかしないから。」
からかってるのはどっちだよと口をへの字に曲げた。あの時の口付けはからかってたのではなく,向き合ってと言う気持ちは真っ直ぐに自分に向いている好意であって…。
「……何で私。」
「さぁね,俺が一番聞きたいよ。子供っぽいと言うか子供だし年頃の女子とは思えない身なりだし,道覚えないし無鉄砲だしおまけに頑固だし…。」
「そんな風に見てたんですか…。」
否定はしないがそれでこの私のどこがいいんだと苦笑いをした。
吉田はくくっと喉を鳴らして,
「全部好き。」
この上ない笑顔で三津を見上げた。
三津は初めて見るそんな笑顔に見とれてしまった。
こんなに素直な吉田は初めてかも知れない。
いつもみたいに捻くれてなくて,端的に言葉を投げてくる。
「吉田さん……変……。」
「本当に酷いね。」
爽やかな笑顔が崩れ落ちた。
どこまでも雰囲気をぶち壊してくれるねと苛立ちを飲み込む様に一気にお茶を流し込んだ。
「いやっ!そのごめんなさい…!そんな明るく笑ったの初めて見たし!」
「普段暗い顔してるみたいな言い方やめてくれる?これでも毎日楽しく生きてるけど。もういいや,それよりお茶のおかわり頂戴。」
呆れ顔で空になった湯呑みを突き出した。
「すぐに!」
三津は背筋をピンと伸ばして暖簾をくぐって行った。
『この距離感の方が楽なんだろうけど。』
今すぐ三津をどうこうしたい訳じゃないが,やはり特別な関係ではありたい。
そう願う吉田の目が甘味屋へ向かって来る総司の姿を捉えた。
「……へぇ。いつか遭遇するとは思ったけど。」
悠長にみたらし団子を頬張りながら,一歩ずつ近付いて来るのを眺めた。
『何て言えばいいんだろ…。』
総司は話の切り出し方を考えながらぼんやりと歩いていた。
長椅子の前まで来て,ようやく吉田の姿が目に入った。
『あ…みたらし団子美味しそう…。』
視線は団子に釘付けだった。そして団子の串を持つ手がちらりと目に入った。
『何だろう。下げ緒?』
そんなもの手首に着けてるなんて変わった人だなとしか思わずお店の暖簾をくぐると,
「お…お…おき…おき…た…さ…。」
急須を手にして明らかに動揺している三津が正面にいた。
っていってるが、実際はちがう。そもそも、「好きなには、そうやすやすと手はだせねぇ」っていってるが、実際はちがう。そもそも、「好きなを好きになるというよりかは、に惚れさせることが大好きなんだ」
永倉が、マジなで応じた。
なるほど。脫髮改善 それで優越感や達成感を味わうってわけだ。でっ、攻略したらつぎの女性ってわけか。
男として最っ低だし、チートすぎる。
「新八っ、いいかげんにしやがれ。おれになんの恨みがあるってんだ?」
「なにを熱くなっているんだ、土方さん。だれも、あんたのことなどと一言も申しておらぬ」
永倉はしれっとこたえつつ口角をあげ、をこちらへと移す。
「だが、左之はちがう。あいつは、誠に好きな相手には、まったく手がだせなくなるんだ。であろうとな」
なんか、衝撃すぎて、口をぽかんとあけたまま、ただきいているしかできない。
原田には、以前からBL的疑惑を抱いていた。
やはり、そうだったのだ。ていうよりかは、性別を問わないんだろう。
「はんっ!なにいってやがる。おれだって同様だ。誠に愛してるだったら、簡単に手などだせるか」
「副長、さようでしょうとも」
まだ熱くいってる副長に、島田が鷹揚な笑みとともにあわせてる。
大人な対応は、さすがである。
「つまり、原田先生はぽちを誠に愛するがゆえに、手がだせなかったと?」
島田ほど大人でないおれは、とりあえずは副長のことはスルーしてしまった。
それどころか、いまおれの脳内は過去にみたBLコミックや小説の挿絵がうずまいている。
あっちなみにそれは、ただ単にどういうものか、どんな世界なのか、webの投稿サイトなどをのぞいただけである。
「主計、おまえはいつもこういう話になると過剰な反応を示すよな?」
「はい?」
「まぁ、おまえも好き者だからな。仕方がないか」
「ちょっ……。まってください、永倉先生。おれは好き者などではありません。そもそも、副長や八郎さん、ついでにおねぇが好きっていうことじたいが間違っているんです。あなたのことやぽちたま同様に、尊敬しているだけです。重ねて申しますが、好き者ではありません。女性でも男性でも、おれはいまのところ興味がないのです。まぁ、モテたらいいなって気はしなくもないですが、それは女性限定です。すくなくとも、男性にどうのこうのされようって気はありません。ってか、なんでおれが『受け』前提で力説してるんですかね?」
なにいってるんだ、おれ?前半部分は至極当然の内容だが、最後のところはわけがわからない。
そんなおれの焦りのなか、永倉がおれのを右に左に傾けた。
おなじ動作を俊春もするが、かわいさがダンチである。ってか、永倉がやると凝っている肩をほぐしているようにしかみえない。
「ふう……ん。兎に角、左之はぽちを相当好きというわけだ」
そして、おれの熱弁を『ふう……ん』だけでスルーしてしまう永倉。
「ザッツ・トゥー・バッドな風呂ですよ。いや、超ストゥーピッドです」
そのとき、障子の役割を果たしていない障子が悲鳴を上げつつひらかれ、現代っ子バイリンガルの野村が怒鳴った。
みあげると、かれがエラソーにおれたちを睥睨している。
「風呂、入ったら病がうつりそうな勢いです」
かれは、ふんっと鼻を鳴らしつつつづける。
「そうか……」
副長は、めずらしく言葉みじかめに応じただけであった。
結局、話し合いは、なにもかも中途半端におわってしまった。
ちなみに、相棒は超不機嫌そうに枯れ木の下でお座りしていたらしい。
これでおれはまた、相棒にストレスをあたえてしまった。それはイコール評価をさらに下げてしまったことになる。
ってか、どこまで下がるんだろう……。
夜の帳ってやつがおり、ずいぶんと経った気がする。それなのに、夕食が運ばれてくる気配がまったくない。すこしまえに、階下に白湯をもらいにいった。ぬるい白湯を、ひび割れたりかけた湯呑みにいれてくれた。それらを盆らしきものにのせ、「ったく、手間とらせんじゃないよ」的におしつけられたのである。
「おもてなしの心 ジャパン」
古きよき時代、もとい、未来で取り沙汰されるその心は、ここでは異世界のらしい。
すごすぎる。なんの液体なのかが判断できない。
薄暗すぎる灯火のなか、みんなで湯呑みのなかをのぞきこむと、ヤバい感がぱねぇ。
だれからともなく、一口もすすらぬまま盆の上に湯呑みを戻した。 でっ結局、この旅籠にチェックインしてからいままで、ずっと呑まず喰わずの状態である。
すぐちかくにコンビニがあるわけではない。それどころか、飲食物をうっていそうな、あるいは喰わしてくれたり呑ませてくれそうな店もなさそうである。
ゆえに、おれたちはただまつしかない。
そして、マイ懐中時計が二十一時をまわったころ、やっと食事にありつけそうな気配があった。
つまり、階下から「喰うんなら取りにこいや、ゴラァ!」的ななアナウンスがあったのである。
いそいそととりにいったのは、副長をのぞく四人である。そしてまた、いそいそと部屋へと戻った。
相棒は、おれの分で半分こすればいい。とてもではないが、犬の分まで準備してくれそうな気配ではないからである。
「土方さん、まだ試衛館にいた
をしっている副長も、すかさず反対してくれる。
「歳、主計・・・。二人して、いったいいかがいたした?なにも、そこでゆっくりするわけではない。こちらより、はるかに田舎である。調練するにはもってこいであろう?」
局長は、まったくきく耳をもってくれない。
「案ずるな。わたしは、大丈夫だから」
その一言・・・。肺腺癌第四期平均壽命 大丈夫とは、どういう意味でのことなのか。
局長は、おれのである。滞在できる場所もかぎられよう」
「だったら、俊冬と俊春に・・・」
「歳、いったいどうした?たかだか滞在する場所、ではないか?この話は、もうしまいだ。兎に角、流山にゆく。それ以外はありえぬ」
そこまでいいきられると、おれだけではない。副長ですら口をつぐむよりほかない。
新撰組が流山に滞在できぬ理由は、たった一つである。そして、その一つが、語れぬ内容なのである。
「法眼。見苦しいところをおみせいたしました。佐々井殿には、その旨よしなにお伝えいただけぬでしょうか」
松本は、なにかを察したとしても、そこはさすがである。
「承知した。ちゃんと伝えておく」
松本のが、副長から双子、それからおれへと、さりげなく向けられる。
このときの話は、これでおわってしまった。
松本は、双子がふるまう食事を堪能し、かえっていった。
関東郡代への伝言をたずさえて。 流山への転陣も、もう間もなくである。
松本が訪れた翌日、双子は朝餉の準備をしたのち、一日不在であった。
わりあてられたおれの部屋に、ズボンとシャツが置かれていた。破けたところを、俊春が繕ってくれたのである。
借り物のシャツとズボンを脱ぎ、それに着替える。
この日は、一応に臨時休業とあいなった。そのため、みんな思い思いにすごしている。とくに傷病人は、ゆっくり体を休めることに専念しているようだ。
局長は、自室で読書中。
金子は、本を蒐集するのが趣味らしい。もちろん、自分でもよむのであろうが、二畳ほどの納戸にかぞえきれぬほどの本がある。DIYっぽい本棚に、きちんと並ぶ本の数々。おれも読書は大好きなので、いいものがあれば借りようと物色しはじめる。
局長の部屋をのぞいたとき、局長は「三国志演義」を喰いいるようによんでいた。さすがである。
ほかに、どんなものがあるのか・・・。
棚を端から端まで眺めてゆく。
うーむ。保存状態というよりかは、購入したときの本の状態がよくなかったらしい。破けていたりページが抜けていたりしている。それ以前に、そもそも、よくある「達筆すぎて判読できぬ」の草書体なので、よむのはむずかしそうである。
「なにやってんだ?」
副長がとおりかかった。この納戸は、局長と副長の部屋から厠へゆく途中にある。
『アイドルは、トイレにいきません』、ということは絶対にない。歴史上トップクラスのイケメンも、おれとおなじようにトイレにゆくのだ。
「副長。局長にならい、たまには読書でもしてみようかと思いまして。ですが、おれのいたところとは書体がちがいますので、よみにくく・・・」
「そういや、利三郎も熱心にみていたな」
副長が、おれにかぶせてくる。その内容に、意外すぎて返す言葉がみつからない。
野村が読書?いやいや、そういうタイプじゃない。小説よりも、漫画や動画を好みそうだ。読書感想文も、真面目に読んだクラスメイトに内容をきくとか、あとがきからテキトーに推察するとか、webでネタバレを調べるとか、そういうたいぷである。
その野村が?いったい、どんな本が好みなんだろう。
そうか、草双紙か。きっとそうにちがいない。
「主計、ちょっといいか?」
副長はそうささやくなり、くっそせまい納戸のなかにはいってきて引き戸を閉めてしまった。ちいさな明り取りから、わずかながらも光がさしこんできているからいいようなものの、それがなければ閉所プラス暗所恐怖症でどうにかなりそうである。
もちろん、BL的には興奮もののシチュエーションなんだろうけど。
「副長。この空間に、二人はせますぎやしませんか?」
密な状態であることを、抗議する。
なにゆえか、ささやいてしまう。
このイケメンとの密そのものが、禁断であるかのように。
世の土方歳三ファンや、元カノいまカノ、さきカノにバレたら、血祭りにあげられるシチュエーションである。
確信すると同時に、恐怖を感じてしまう。
「あああ?おまえ、なに興奮してんだ、ええ?鼻息あらいぞ。おれは八郎じゃねぇ。落ち着きやがれ」
「副長が八郎さんじゃないってことは、わかっています。ってか、なんでいまここで、八郎さんの名がでてくるんです?」
「おまえが大好きだからよ。ってか、かような話はどうでもいいんだよ」
自分でふっておきながらどうでもいいって・・・。
どういうことなんだ、イケメン?
「かっちゃんのことだがな。くわしく教えてくれ」
副長がさらに
にとっても山南君の切腹は衝撃でした。彼はつまらないことで死ぬ男ではありません。故に、彼にとって
を諌めるということはそれだけの価値があったのでしょう」
伊東にとって、山南の立ち位置というのは眩しく見えた。嫉妬心が無かった訳ではない。超えたいと強く思ったが、死んで欲しいとは一度も考えたことは無かった。
山南は道場の隅にいるような、影の薄い柔和な男だった。ああして再会さえしなければ、思い出すことなど無かったと断言出来るほどに。
だが、今やどうだろう。避孕 局長の近藤よりも、土方よりも誰よりも鮮やかに眩しく己の中に残っているのだ。
その様に尊い男の思いを無碍にすることは、今の伊東には出来なかった。のしたことを誤りだったとは思いません。ですが、浅慮だったと思っております」
腿の上に置かれた拳を握り、を垂れる伊東の姿は悔やんでいるように見える。
「今後、土方副長とも腹を割って話すように心掛けます。……にはもう退路はありませんから」
「退路……?」
そう問い掛けた時である。ドタドタと弾むような足音が聞こえた。藤堂だと直ぐに分かり、視線をそちらへ向ける。
「この話はまたいつか……。今度は貴殿の話も聞かせて下さいね、鈴木桜司郎君」
伊東はそう言うと、妖しげに目を細めて桜司郎の頭を撫でた。そして藤堂の元へ向かう。 その後、伊東を伴って試衛館へ戻った藤堂と桜司郎は自身の荷造りをしていた。明日の早朝には江戸を発つと云う。当初は四人で来たものが、五十二人の新隊士を伴うものだから大変な大所帯の行進となる。
土産やらを詰めながら、桜司郎は長かったのか短かったのか分からない江戸での出来事を思い出していた。そこへ土方が顔を見せる。
「おい」
「はい。副長、どうされました?」
「帰りの宿は、伊東とお前の部屋に俺も入ることにしたからよ。話は以上だ」
土方はそれだけ言うと、さっさと去ってしまった。あれだけ関わるのを嫌がっていたのに、何の心境の変化があったのだろうと桜司郎は土方が去った後を見詰める。まさか、男女の二人きりの同室は良くないとでも思ったのだろうか。
「……まさか、ね」
流石に自意識過剰だと肩を竦めると、桜司郎は荷造りの手を進めた。
翌朝。朝焼けの綺麗な空を見上げ、江戸に別れを告げる。隊士に志願した者の家族がちらほらと見送りにやって来ていた。
それに混じって建物の影に隠れるように、手拭いを に被った女性がこちらを見ていることに気付く。視線が合うと、女性は会釈をした。
「あ……」
桜司郎は笑みを浮かべる。近くで土方の出立の音頭が聞こえると、前を向いた。歩みを進めながら、後ろ髪を引かれるように再度振り返る。そしてそっと小さく手を振った。
それを見た女性は我慢出来ないといった風に影から一歩出ると、頭の手拭いを取る。そして背筋を伸ばして頭を下げた。
凛としたそれは、まるで武家の妻が戦場へ出る夫の見送りをしているようにも見える。
胸がじんわりと熱くなり、桜司郎は思わず立ち止まった。
「わッ!鈴木〜、どうしたの?いきなり立ち止まるなんて」
「ご、ごめんなさい。何でもありません」
後ろを歩く藤堂とぶつかりかけて足を進める。何歩か進んだところで横目で見遣ると、既にそこには女性の姿は無かった。
嫁入りをする女性が他の男の見送りをするなど、あまりにも体裁が悪い。その危険を顧みずに来てくれたのだと思うと、それだけで満たされた気持ちになった。
──有難う、歌さん。さようなら。どうかお幸せに。
桜司郎は心の中でそう呟くと、前を向いて足を進める。
「
素早く斎藤の間合いに入ると、手にした刀を右下から左上に斬り上げるように振るった。
「くッ……」
斎藤は間一髪でそれを躱す。切っ先が顎先の空を切った。
桜花はすぐに腕に力を込め、肉毒桿菌 針 足を踏ん張ると、返す刀で斎藤の首に刀を突き付ける。
「……い、一本ッ」
慌てたような松原の声が響いた。桜花は荒い息を何度も繰り返すと、刀を鞘に収める。
「俺の、負けだ。あんたは文句無しに強い。己を誇れ」
斎藤は額に浮かぶ汗を拭うと、先程刀を突きつけられた首元に手を当てた。
あの瞬間、本能として死を覚悟した。殺られるとはあのような事を言うのだろう。
「あ…有難うございました」
その入隊試験により、桜花の仮入隊が決定した。
現在勧誘に向かっている江戸からの入隊隊士の寝床確保の件もあるため、桜花は一先ずは今のままの部屋を使用することになる。
数日後。欠けた月が美しく光を放つ夜のことである。
八木邸の二階、つまり桜花の部屋に向かう階段を上る一つの影があった。
新撰組ではいつ何時も戦闘に備えられるように、仮入隊の時点で寝込みを襲い、その覚悟と適性を見極めるという試練がある。
普段は眠りが浅い桜花だったが、夕方に沖田や他の隊士とみっちり稽古をしたせいか、疲労感の為に深く寝入っていた。
土方の命を受けて、忍び込んで来たのは対戦相手だった斎藤である。
この試練を担うのは平隊士の役割でもあるのだが、桜花の腕前では斬殺されかねないと、副長助勤が担当することになった。
そこで白羽の矢が立ったのが斎藤である。
淡々と任務をこなし、かつその腕前を知る男。
だがその内心は複雑だった。何時かの明け方に寝間着姿で儚げに空を見上げる桜花を見た時、酷く心が掻き乱されたからである。
上司、それも敬愛する土方の命であれば滞りなく遂行しなければならないという使命感を胸に、斎藤は二階を睨んだ。
極力足音を立てずに階段を上り切る。床を見つめながら深呼吸をした。
そして顔を上げると、そこに広がる光景に目を見開き、息を飲む。
小窓から差す仄かな月明かりに寝床が照らされていた。そこには、あどけない寝顔で小さく寝息を立てる桜花の姿がある。
敷布に広がる黒髪、規則的に上下する胸元。二階は特に空気が籠るために蒸し暑いのか、寝乱れた裾から見える白い足──
煽情的なその姿に斎藤は動揺した。平静を装うとしても、血潮が煮えくり返り、心の臓が激しく波立つ。
島原のどんな艶めかしい娼妓よりも、感情が急き立てられた。
「……ッ」
斎藤は左胸に手を当て、何とか落ち着こうと目を瞑る。だがその瞼の裏にも鮮明に艶姿が映っていた。
邪念を振り払うように首を振ると、土方から依頼された時の光景や隊士達のむさ苦しい稽古姿を思い浮かべる。
そして目を開くと、寝入る桜花の足元に立ち、腰の刃引きされた刀に手をかけた。
それを抜き放とうとした刹那。
斎藤が足に衝撃を感じた瞬間、視界がぐるりと反転した。背中には微かな温もりと敷布の擦れた音が耳元で聞こえる。
僅かな殺気を察知した桜花が斎藤の足を引っ掛け、倒れかかったところを胸ぐらを掴み、布団へ押し倒したのだ。
「んぅ……、斎藤、先生…?どうして、此処に…」
斎藤は先程とは違う心の臓の鼓動を感じながら、